大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)1198号 判決

被告人 佐瀬進

〔抄 録〕

原判決挙示の証拠を綜合すると、被告人は自動車運転者として昭和二十九年六月十日午後四時四十分頃原判示乗合自動車を運転し原判示場所を進行中、その前方約十七米の県道右側人家より同一進行方向に向け斜前方に県道を横断するようにして原動機付自転車に乗つて進行してきた島田国太郎を発見したが、右島田が被告人運転の乗合自動車を避けるものと軽信し、単に警音器を数回吹き鳴らしたのみで、時速約二十八粁位の速度を減じないでそのまま約十米位進行し、島田に近接してもなお同人が避ける様子もないので、それから急いでハンドルを左に切りつつ急停車の措置を講じたが、時既に遅く乗合自動車の右側フエインダーを島田国太郎の自転車に衝突させ、同人を自転車もろともその場に転倒させ、その頭部を舗装道路面に強打せしめ、その結果右衝撃によるシヨツク死により同人を死亡させるに至つたものと認定できる。そうとすれば被告人が島田の進行して来るのを気づいた時、同人との距離は十七米位もあるから被告人が細心の注意を払い、同人との接触を避けるためいつでも急停車し得る程度にその速度を減じ、同人が自動車の進行に気がつかず、これを避けようとする様子がなくても、接触転倒させる事故の発生を未然に防止できたに拘らず、被告人は警音器を鳴らしたのみで、約二十八粁の速度を減じることなく、そのまま十米も進行したため、その後の急停車の措置も及ばずして本件事故の発生を見るに至つたこと洵に明らかなところであるから、被告人はその当然遵守すべき業務上の注意義務を怠つたことの責任は免れないものである。

所論は被告人は法令上一切の注意義務を守つていたもので過失はないと主張する。しかし道路交通取締法が自動車を操縦する者に対し特定の義務を課し、その違反に対して罰則を規定したのは行政的に道路交通の安全を確保せんとする趣旨に出たもので、刑法第二百十一条に規定する業務上の注意義務とは別個の見地に立脚したものであるから、道路交通取締法又は同法に基く命令に違反した事実がないからといつて被告人に過失がないともいえない。それ故被告人が本件事故当時公安委員会が定めた最高速度以内で自動車を運転し島田の進行を認め警音器を鳴らしたことは原判決も認定しているとおりであるし、その他同法第七条の無謀操縦に該当する行為がなかつたことは所論のとおりであつても、被告人に業務上の注意義務に違反し、過失があると認定するを妨げない。

(加納 吉田作 山岸)

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